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漢方薬方  〜伯州散・ハクシュウサン〜

津蟹
反鼻
鹿角

伯州散・ハクシュウサン −本朝経験−
薬味構成
津蟹反鼻鹿角

適応 セツ 蜂ソウ織炎 麦粒腫
中耳炎 ヒョウ疽 乳腺炎 カリエス
痔ろう 下腿潰瘍などの化膿性外科諸疾患 神経性抑うつ反応 創傷
鼻出血 リンパ腺炎 肛門周囲炎 歯肉出血
病位
太陰病よりの少陽病

虚実
虚証

十二臓腑配当


方意
●表の湿証による稀薄な浸出液・不良肉芽・難治還延などがあるもの
●化膿を限局、消散、排膿を促し、肉芽の新生を促進
●虚証による疲労倦怠、無気力
に対する方剤です。

目標
 亜急性または慢性の諸種化膿性疾患の方に用います。
 体力が低下し、倦怠、疲労があり、ロウ孔や潰瘍となり、排膿がとまらず、肉芽の形成が悪くなかなか治らない方に用います。痛みが止まらず、精神不安を伴う方に用いることもあります。
 この方は古来より伝承された民間薬であったらしく、吉益東洞が用いて有名になりました。非常に効果があったため、一名『外科倒し』と言われ、古方家が好んで兼用した薬です。

お薬の飲み方
できるだけお湯でお飲み下さい。

症例 重症神経衰弱患者に対する伯州散の効果/28歳・男性 
                           漢方百話 第一集・矢数 道明著より引用

 患者は当時28歳であった。本病のため、高等学校を途中で退学している。
−中略−高校中退後は、富士山麓の親戚に身を寄せて自然と親しみ、あるいは遠く朝鮮の知人を頼って遍歴の旅を続け、魂の安息所を求めたが、心の傷手は癒されるべくもなく、一昨年秋、突然自宅に帰るや会場の一室に引きこもって一歩も出でず、家人とも口を利かず、文字通り、独居不語を続けてきたのであった。
 この後、数人の医師の治療を受けているが症状は一向に改善せず、精神生活は朝のごとく乱れていったようである。矢数先生がこの患者を診ることになりそのときの様子を以下のように述べていらっしゃる。
 さて、私は、母親に案内されて階上の病室へと通った。締め切ったむさ苦しい六畳の間は陰惨極まるもので、その一隅に万年床が敷かれている。雑然たる室内の空気、患者は布団の中央に向こうを見て居座ったままさらに動こうともしない。頭髪は范々と伸び、垢が染みて黒いまでに汚れた手ぬぐいを頭に巻きつけ、破れた綿入れを丸くなるほどたくさんつけている。一見して廃人に近い姿態である。母親は後ろから患者のなを呼んだが返事がない。「先生よ」と促すと患者はやや動揺の形で向こう向きのまま少し体を動かしたかと思うと、やがて静かに右手を後ろに差し出した。そして早口にオドオドした調子で「これに書いてある、これに書いてある」というのである。
 患者の言いたいことを聞き、その後、腹診にうつられた。腹診での状態は以下のようであった。
 全腹あだかも鉄板を按ずるようで、いくら押してもびくともしない。(このような腹状を呈しているもので早期痴呆症といわれたのをその後2例ほど見たことがある。)これは漢方で疳病というものである。肝毒をとりさえすればよくなると思われる。それを話すと母親がわが意を得たという様子であったが、そういわれますと、この子は子供のときにそれはそれは疳が強くて友達と喧嘩でもして泣き出すと、すぐに引き付けてしまうほどでした。ということだった。患者の訴えを改めて列挙すると、頭重、頭痛、後頭部を締め付けられるような感じ、目の奥から脳中に鉄の棒を突き刺したような感覚、脳中血管の梗塞感、上衝、盗汗、心悸、不眠、遺精、食思不振、羸痩(るいそう)などがあった。
 そこでこのような証に養血安神湯を用いて効を奏したことがあったので投薬した。養血安神湯は回春に驚悸血虚火動に属するものを治すという。次いで「肝胆の気鬱、狂症、驚懼人を避けて兀坐独語、昼夜寝ねず、猜疑心多し」に該当するものとして柴胡加竜骨牡蠣湯に変えた。
 服用後の経過を略述すると、3ヶ月ほど同方を連用して、諸症次第に軽快し、患者は特に私の往診を待って相語ることを楽しむようになり、私に茶菓子を進めつつ昔話をするほどになったが未だ一歩も病室を出ない。本人も家人も夏頃には外出でき得るだろうとすこぶる期待していたのである。
 ところがしばらくして往診してみると、数日前突如として両目激痛を訴え差明はなはだしく、深く戸を閉ざし、節穴はすっかり目張りを催し、その上座敷中黒幕をめぐらして、電灯に黒幕を多い、両目にもまた眼鏡の下に覆いをして全く光線を遮断、しかも眼痛を訴え昼夜一睡もしないというのである。これに対して伯州散を与えた。10日ほどしたが何の通知もないので、恐れながら立ち寄ってみると、患者の病室である窓はきれいに取り払われている。玄関などはいかにも改まった気配が感じられる。これは、と不吉な予感で案内を請うと、奥から母親が出てきていつになくニコニコ顔である。おかげさまであれが大層良く効きまして、目のほうはすっかり良いし、気分がまるで別人のように良くなりました。今も階下に来ていたのです。という意外な吉報である。
 その後、伯州散を一服ずつ服用させたところますます良好で、7月初旬には久しぶりにて旧友と数時間会談したがいささかの異常もなく、9月には近所の子供たちに慕われて共に隣村の秋祭りに出かけたという快癒ぶりである。その後患者は生来の凝り性を発揮して、飛行機玩具の作製に熱中し、驚くべき精巧な飛行機を考案した。遠近これを伝え聞いて、患者が作成した飛行機はそれこそ飛ぶように売れていったので、大いに家計を援助することができたという。患者家族の喜びは一方ならず、一族の疾患は上げて私に託されたほどである。

備考
 内服だけではなく、外用としても用いられます。切り傷に撒布して止血、化膿防止の効果があります。


参考文献  出典1) 漢方診療医典 大塚敬節
矢数道明
清水藤太郎 著
出典2) 漢方処方 応用の実際 山田光胤 著
出典3) 漢方方意ノート 千葉古方漢方研究会 著
出典4) 漢方治療百話第1〜3集 矢数道明 著
出典5) 腹證奇覧 稲葉克文礼
和久田寅叔虎 著
出典6) 漢方処方応用のコツ 山田光胤 著
出典7) 薬局製剤 漢方194方の使い方 埴岡博・滝野行亮 共著
出典8) 勿誤薬室方函口訣 長谷川弥人 著
出典9) 漢方診療30年 大塚敬節 著
出典10) 皇漢医学 湯本求真 著
出典11) 黙堂柴田良治処方集 柴田良治 著
出典12) 類聚方広義 吉益東洞 著



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